Wednesday 23 August 2023 HT

音楽

担当:石橋

■活動の様子
 今回は貴重な年代物のピアノを、わざわざ調律して下さったとのこと。早速弾いてみると、低音や中音が弾きやすくなっていました。ありがたいことです。調律の際、前板を外して弦がむき出しになったところを、T君はお母様と一緒に、ずっと興味深そうに見ていたそうでした。

 今までの様子を見て、身近な楽器の中では、T君の興味がピアノに一番あることは何となくわかるのですが、何とか少しでも、自分で音を出せるようになればT君も楽しいだろうなと改めて思いました。
 今回も、まずはゆっくり一緒に座ってラブミ―テンダーを弾いてみました。前回は、体の外側に向かって握りしめたT君の手を取って、人差し指の第2関節の曲がったところや親指の曲がったところで鍵盤を押していたのですが、体の外側になら指を開くことができるので、伸ばした指一本で音を出せないかと考えました。やはり押さえる鍵盤を自分の目で確認しやすいし、隣の音とも混ざりにくいからです。
 誰でも押せば音が出るピアノですが、なにせT君は掌や握りこぶしでギャンギャン乱暴に鍵盤を押したことは一度もないのです。それだけ音に敏感で、目の前のピアノという楽器から出てくる音を注意深く聴いているような気がしました。

 正確に単音を出していける指はどれか試してみようとしたのですが、腕の動かせる角度的に少し難しかったようでした。無理に指を開かせようとして申し訳なかったのですが、次は、この日初めてお持ちした「レインスティック」をお見せして楽器の説明をした後、レインスティックの片方の端についている紐をT君の手に巻き付けて持ってもらいました。反対側を私がゆっくりと持ち上げるとシャラシャラと音がします。今度はT君の手より下に降ろしていくと、またシャラシャラ・ザーザーと音がします。手にもいくらか振動を感じるのか、T君は遠くを見るようにジッとして聴いている様子でした。

 それからT君の好きなクリスマス曲を何曲か聴いていただいたのですが、T君はおもむろに電気ピアノの方へ移動して、スイッチを触りだしました。初めに電気ピアノの音が出たので、ブルースを弾いてみました。もしかして一緒に弾けるかなと思ったのですが、そんな気分でもないようで、T君はスイッチをまた動かし始めると、いきなり自動演奏でスコット・ジョプリンの「メイプル・リーフ・ラグ」が始まりりました。ご機嫌なラグ・タイムで、私も大好きな曲ですが、T君も上半身を左右に揺らしながら嬉しい楽しいのサイン。久しぶりに見るダンスでした。

 ひょっとして、これを聴きたくて今まで何度も電気ピアノを触りに来ていたのかなと思ったら、今度はショパンの幻想即興曲が始まりました。何とも煌びやかな超絶技巧の曲で、これまた上半身を右へ左へと揺らしつつノッている様子。やはり典型的なピアノ曲が好きなんだなと思いました。

 演奏が終わると、今度は生ピアノに戻り、ペダルの所をジッと見ています。ここを押すと、中の弦が解放されて音が響いてくることを説明しながら、押した時と押さない時の音の違いを何度も聴き比べてもらいました。とても興味がある様子で、一緒にペダルを押しながら、ジッと聴いていました。改めて、T君のピアノ好きは揺ぎ無いものとして感じた次第です。