Tuesday 22 Oct 2024 HT

音楽

担当:石橋

■活動の様子

今回も、ちょうど学校から帰ったところでしたが、早速Tさんがお気に入りのシナトラやディーンマーチンの動画を観せてくれました。お母様のタブレットを横から急かす様に器用に操作するTさんの手元をジッと見ながら、課題になっている「どうやったらピアノの鍵盤を弾けるようになるか」を考えていました。
Tさんは垂直に立てたタブレットをスライドするのが得意で、鉄琴も横にバチをスライドして音を出していた動画をお母様が見せて下さいました。
スムーズに動かせる部分や方向などがわかれば、Tさんが無理なく音を出す方法も見つけられるかも知れないと思ったのですが、ピアノの鍵盤の上に正確に指を落としていくという動作は、なかなか難しい状況ではありました。

Tさんが観せてくれたシナトラは、有名なクリスマスソングを少し崩してリズムとメロディをお洒落に歌っている動画だったのですが、Tさんは学校などで習う一般的な元曲を知っていて、そのメロディーやリズムを崩しているのを理解した上で、崩している方を好んで聴いている様子でした。その辺りがTさんの音に対する鋭い感性と、独自のこだわりを持っているところなのかもしれません。

せっかくだから私の歌も聴いてもらおうと、生ピアノで「枯葉」を弾いてみたら少し興味を示してくれたようでした。それを見て、お母様が私の右横に椅子に座ったままのTさんを連れてきてくださいました。嬉しいことに久しぶりにTさんはピアノを弾く気になったようで、手の指の関節を鍵盤の上にそっと当てて、ピロッ、ピロッと音を出してくれました。
「あ、いいね!」「イイ感じ!」と言ったら、そのうち右隣の高音ではなく、左の低音の方に行きたがっている様子で、お母様が椅子ごと移動して下さったら、今度はさらに左へ体をねじるので、お母様が「もしかして、電気ピアノの方?」と、同じくTさんを椅子に座らせたまま電気ピアノの前へ移動させてくれました。

ここで、今までなら私も電気ピアノの前に移動していたのですが、今回はそのままピアノの前に待機して、後ろからTさんを見ていました。
久しぶりの電気ピアノですが、前にTさんがボタンをあちこち押していたら突然、内蔵のショパンの模範演奏曲が始まって、いきなりフリフリダンスをしていたことを思い出しました。今回はどう使いたいのだろうと思っていたら、ひとまずお母様が音が伸びるオルガンの音にセッティングして下さって、おもむろにTさんが電気ピアノを弾き始めました。ゆっくりと鍵盤の真ん中あたりに握った手を置いて、隣り合った音を同時に鳴らす前衛的な和音ではありましたが、気持ち良さそうにジッと聴いている様子。それを見て、さっきのシナトラの崩し方を好むTさんを思い出し、「そうしたかったのかぁ。」と思った私は、それを聴きながら、「私も入っていい?」と断ってから、チョロッと生ピアノを弾いてみました。
すると、Tさんは振り返ってこちらを見たので、私もTさんを見ながら音を足して行きました。音と音の交信が上手くいった気がしたので、さっきの「枯葉」を歌ったら、そのままTさんは別の音を押さえて伸ばして、こちらを見ています。明らかにTさんなりのアプローチをしていると感じました。

なんだか良い感じになってきたので、続けてTさんの一番のお気に入りの「ハロードリー」を弾いてみました。すると、Tさんは例の上半身を思い切り左右に回転させて「楽しい!嬉しい!」のフリフリダンスを見せてくれました。Tさんは、そのまま電気ピアノを弾きながら、一緒に何度も繰り返して「ハロードリー!」を演奏しました。

実際に鳴っていた音は、ちょっと前衛的な響きだったかもしれませんが、互いに時々見つめ合いながら、音を確認しながら演奏する様子は、まるでジャム・セッションというかコラボというか、まさに即興で音楽を作っていく感覚でした。こんなことができるなんて思ってもみなかったので、驚きました。この後、一旦椅子から降りてクリスマスソングを聴いてくれたのですが、最後にもう一度「ハロードリー」をセッションして終わりました。

いつもは、Tさんを抱えながらお母様がピアノの椅子に座るのですが、この日は初めて、椅子とTさんをコルセットの様な布でゆるく巻いて固定する方法で、Tさんはひとりで座っていました。お母様としては、Tさんの体が大きくなったからかもしれませんが、もしかしたらこのことも、Tさん自身が独立した気持ちで自由に発信できたのかもしれません。それを意識していたのか、コラボが始まったら、お母様がわざと奥に入ったりして、Tさんの視界から消えてしまう場面もありました。前は、Tさんがお母様を追いかける場面もあったのに、今回は堂々と電気ピアノを弾いていました。

Tさんのやる気を引き出すのが難しいと仰っていましたが、独立心や自由な創造力を引き出すために、お母様が陰ながらサポートして下さることは本当に有難いことだなと思いました。何より無理に弾かせようとしないで、自然に気分が乘って弾いてくれたのが一番嬉しく、しかも明らかに自分や私の音を聴きながら、自分の意志で弾いていたのがハッキリわかったので、感激でした。お母様からいただいた「音楽で自分を表現する」という目標に、少し近づいたのではないかと思いました。次回が楽しみです。